日高川町に移住して炭焼き職人になりました。2つの家族が出会った「紀州備長炭」と愉快で自由な暮らし

日高川町が生産量日本一を誇る特産品、紀州備長炭。現在も多くの職人が山麓に工房を構え、「炭焼き」で生計を立てています。今回は、移住してほぼ同時期に炭焼き職人の道を進み始めたお二人と、そのご家族にダブルインタビューしました。

~プロフィール~

伊藤さんファミリー(2016年12月 奈良県から移住)
弘貴さん・周子さん・明莉ちゃん

 

 

 

小松さんファミリー(2017年4月 宮城県から移住)
隆宏さん・久美さん・拓夢くん

 

 

 

移住までのそれぞれのストーリー

日高川町へ移住したきっかけは?

伊藤周子さん(以下、周子さん):子どもが小学校に上がるタイミングで移住を考えました。元々住んでいた奈良県内の町でも自分は移住者だったんですが、そこはすごく歴史のある地域でもあり、ちょっと閉鎖的な雰囲気もあったんですね。それで「このままずっと“よそ者”としてここにいるのか?」と考えたときに、他にも良い所があるんじゃないかな、と思ったんです。

関西を中心にあちこち見て回りましたが、その頃ちょうど大阪で和歌山県の移住フェアがあったり、日高川町の現地体験ツアーがあったりして、色々聞いたり見たりすることができました。和歌山県は全体的に移住に対して前向きで、気軽に相談できる窓口も身近にあるのがいいなと思いました。

インタビューは伊藤さんの炭焼き小屋にて。なんとも開放的な職場です

小松隆宏さん(以下、隆宏さん):海が好きなので、宮城県では海のすぐそばに住んでいました。でも震災と原発のことがあって、海水浴場が閉鎖になったり、近くで獲れた魚も出荷停止になったり…。

小松久美さん(以下、久美さん):何するにもモヤモヤしてしまって。安全だと言われても、目に見えないものだから。だから、このままモヤモヤしながら子育てするんだったら、安心できるところに行こうかなと思ったんです。

隆宏さん:ちょうど宮城県から日高川町に移住したという方と知り合って、その方が日高川町のことや炭焼きのことを色々教えてくれたんです。それで一度旅行がてら行ってみようとなって。実際に見てみたら、日高川町は山もあって、海にも行けて、仕事(炭焼き)もありそう。ということで、ここにしようと思いました。

人と接する仕事より、山との会話がいい。~「炭焼き」というお仕事

窯の中で真っ赤に焼けた炭を取り出す「窯出し」の作業

なぜ「炭焼き」をしようと思ったんですか?

隆宏さん:ぼくは、例の知人が炭焼きという生業をすすめてくれたので。「炭焼きは儲かるらしいですよ」みたいなことも聞いたので、もう「炭焼きをやる」というつもりで移住しました。

伊藤弘貴さん(以下、弘貴さん):実は元々は漁師がしたくて、海沿いの家や求人を探していたんです。でも、結局入居を決めた空き家が内陸のほうで、通うことが厳しくなってしまって。
それなら、せっかく縁あってこの土地へ来たんだし、何か地場産業がやりたいなと思っていた時に、炭焼きという仕事のことを知りました。見学に行ってみると、移住してきたという人や、若い人たちも立派に炭焼きで生活していて、「意外と若い人もおるんやな」と驚きました。また、「炭焼きの8割は山仕事(※)と言われたんですが、ぼくは奈良でも山仕事をしていたので、「それならできるかも」と思いました。
(※)備長炭の原料となるウバメガシの原木を山から切り出す作業

炭焼き小屋の外観。秘密基地みたいでわくわくします

 

「炭焼き」というお仕事の魅力ってなんですか?

弘貴さん:自然の一部になってる感じがしますね。人と接する仕事より全然いい。肉体的にはしんどいけど、精神的にはすごくラクですね。もともとコミュ障なんで。人間関係のストレスがないのはいいですね。

隆宏さん:大自然の中で仕事をしている感じがして気持ちいいです。炭焼きは8割が山仕事だとよく言われます。山が一番しんどいという人もいるけど、ぼくは山が一番楽しいかも。山で木を切ってると「山との会話」が楽しいんですよね。

一同:山との会話・・・!それって、しゃべるんですか?

隆宏さん:しゃべるんです。「おはよう」とか。木も一本一本違うから、話しかけながら切るんです。「お前はこう切ったらどっちに倒れるんだ?」「こっち。」みたいな。「じゃあこっちに倒してあげよう」って言って切ったらまったく逆方向に倒れたりするんだけどね。

弘貴さん:会話できてないじゃないですか(笑)

隆宏さん:一方通行かもね…。

備長炭になる前の原木。まっすぐの炭を作るために、「コミ」と呼ばれる木片をかませるのも一つの工程

逆に、「炭焼き」独特の大変さってありますか?

弘貴さん:全部大変。全部汗かくし、全部難しいし。

隆宏さん:「この作業は簡単」っていうのはないですね。でも一つ一つの作業が奥深くて、おもしろい。

久美さん:お金の面が大変。実際に焼き始めて収入になるまでの間の生活費も必要だし、何かと必要なモノも揃えないといけないし。最初に炭焼きの見学に行った時も、ベテランの方から「500万かかるぞ」って言われました。

隆宏さん:自分たちはたまたま空いている窯を借りることができましたが、もしなかったら自分で窯を作らないといけないし、土地も借りないといけないし、お金はもっとかかったと思う。

原木割り機は炭焼き職人の必需品の一つ

夏の暑さも大変そうですね。火を扱う仕事ですし・・・。

弘貴さん:暑さは・・・ひどいですね。

隆宏さん:ぼくは夏、大好きですけどね。エアコンガンガンの中で仕事するより、外で汗かいて働いてるほうが体にもよさそう。

久美さん:みんな朝早くに山へ行って作業を済ませてくるとか、工夫しながらやってますね。

弘貴さん:時間の使い方を自分でコントロールできるので、そのあたりは自由ですね。休みたいときは休めるし。

イヤでも溶け込む?子育て・暮らし・ご近所付き合いのこと

移住してから、お子さんに変化はありましたか?

周子さん:今住んでいる地区は小さい子どもが多いので、毎日お友達が家に遊びに来てくれるようになりました。以前は遊びに行くのも車で送り迎えが必要だったんですけど。
近所の皆さんもいつも様子を見ていてくれて、「一輪車乗れるようになったね」とか声をかけてくれる。子育て環境としてはすごく良いですね。

久美さん:やっぱり子どもはこっちの言葉を覚えるのが速いですね。家では相変わらず宮城なんですけど、学校ではもう和歌山弁をしゃべってるみたいです。言葉のことは少し心配していたんですが、全然大丈夫みたい。

隆宏さん:炭焼きをやるようになって、家族と過ごす時間も増えました。うちの子も学校の作文で、もう将来は炭焼きをやるって書いてました。

弘貴さん:仕事してるところを子どもに見せられるのはうれしいですね。

窯を囲んで家族でバーベキュー。七輪の中にはもちろん備長炭

こちらで生活してみて、カルチャーショックとか、驚いたことってありましたか?

隆宏さん:こっちは人間があったかいですね。そしてめちゃめちゃフレンドリー。初めて会った人でも、まるで昔からの知り合いみたいに話しかけてくる。この間、腰を傷めて接骨院に行ったら、受付のおばちゃんに「どうしたん!?」って言われて。いや初対面ですけど!?みたいな。

久美さん:宮城ではこんなことまずないです。宮城だったら何度か会ううちに徐々に距離を縮めていくような感じですけど、こっちはいきなりゼロ距離。

周子さん:和歌山の人って、おおっぴろげで付き合いやすいですね。陰でコソコソ悪口言ったりするんじゃなくて、言いたいことがあれば本人に聞こえるような声で言ったり、直接本人に言っちゃったり。

久美さん:あと驚いたのは、寒い!!美山地区は特に寒いし、古民家も隙間が多くて本当に寒い。和歌山ってもっと暖かいと思って来たので、冬めちゃめちゃ寒くてびっくりしました。

周子さん:冬場は家でも備長炭フル活用です。お風呂を焚いたり、七輪に入れて料理に使ったり、その熾火を火鉢に入れて暖を取ったり。うちでは1人1個、マイ火鉢を持ってます。

備長炭でイカ焼き。贅沢な使い方です

ところで、隆弘さんは今年PTA会長になられたとか・・・?

隆宏さん:PTA会長は5年生の保護者から出すことになっているんですが、他の保護者さんが学校の先生だったりして、行事ごとが重なったりしてしまうので、結局「ぼくがやります」という感じに…。あと、こちらに移住してすぐ、区の班長になってしまって。近所の人の顔と名前も一致してないから、配り物とかめちゃ大変でした。

弘貴さん:ぼく、今年班長なんです。しかも今年はうちの班が餅まき(※)の準備の担当にもなってしまっていて、周りからは「気の毒やね~」なんて言われるんですけど。
(※)餅まき…和歌山県では祭などのイベントや家の棟上げの際に餅まきをする文化があります

隆宏さん:うちの子も、移住して初めての祭で稚児(※)を任されたんです。これには本人もびっくりしてました。祭も移住者を排除するような雰囲気ではなく、むしろウェルカムな感じですね。
(※)稚児…祭礼で役を演じる子ども。小松さんの住む地区では春の祭礼で地域の子ども3人が選ばれます

春の祭礼の行列

移住者だろうと容赦なさすぎですね。負担に感じることはありませんか?

周子さん:何も知らずに都会から来たら大変かも。私たちは元々田舎に住んでいたし、承知の上で来たので大丈夫です。

久美さん:うちは一度お祭と窯出しの日が重なって参加できないということがあったけど、今のところ特に何か言われたりはしてないです。地区によっては行事を欠席するとお金を払うルールのところもありますけど、うちの地区はそういうのはないですね。地区によって、厳密なところと、ゆるいところとあるんですね。

最近、困っていることや悩み事ってありますか?

久美さん:バイクの音がうるさい。家の近くの国道はツーリングに来るバイクが多いので。スピードも出していて、ちょっと怖いです。

隆宏さん:天井裏に生命反応がある。明らかにネズミより大きい何かが棲みついてるような…。この前突っ張り棒で天井ガンガン叩いたら逃げて行ったけど、あとでまた戻ってきてた。

周子さん:近所に住んでる保育園児の子がいつも無言で家に入ってきてびっくりする。

弘貴さん:髪型が決まらないことですかね。

久美さん:でも基本的に、こっちに来て嫌なことってないですね。

周子さん:ストレスフリーですね。ちょっとのんびりし過ぎてるなぁと思うくらい。

 

自然の中で自由気ままに、暮らしを楽しんでいます

最後に、これから移住を検討している人に、メッセージをお願いします。

弘貴さん:来たらわかるよ!

隆宏さん:まあ住んでみなよ!

皆さん、インタビューへのご協力、ありがとうございました!